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鳥取砂丘の植物


 鳥取砂丘は乾燥砂漠と地形的に似ていることから誤って同一視されがちであるが、生態系的にはまったく別物である。
 日本のように湿潤気候下にある海岸砂丘では、砂の表面温度が五十度にもなる真夏でも、カラカラに乾燥している砂のすぐ下の層は常に湿っていて、乾燥が植物の生育の致命的な制限要因にはならない。
鳥取砂丘は大きな起伏と複雑な地形とともに、斑紋状に発達する多様な植物群落が生育することで特徴づけられる。微妙に変化する地形と、地形によって異なる砂の動きとにより、植物群落の発生・発達が制約されているのである。
 砂の動く健全な「生きた砂丘」は、ふつうの植物にとってはやはり過酷な環境であり、砂丘に生育できるのは砂丘植物だけである。しかし、小さな砂丘植物といえども砂防効果を発揮するため、植物群落の発達は風をさえぎって砂の環境をかえ、砂丘の安定化を進行させる原困ともなる。砂が移動しているあいだは砂丘景観が維持されるが、環境の変化にともない、ややもすると、砂の固定化の脅威にさらされることになる。砂の固定化は雑草の繁茂を招き、やがてクロマツ林へと移りかわつていく。
 このように、砂丘はきわめて変化しやすい微妙なバランスの上に成立している。クロマツ植林の生長により砂丘地の送風空間が狭められている現在、自然に放置するだけでは健全な砂丘貫親は維持できない。ブナ林のような自然は不用意に人手を加えてはならないが、砂丘や湿原のように特殊な条件のもとに維持されている自然は、その条件がこわれないよう管理することも自然保護である。
 国立公園の中核であり、国の天然記念物である鳥取砂丘の価値を認識するなら、早急に砂丘の抜本的な保全対策の検討を開始しなければならない。

砂丘植物の生態
 鳥取砂丘に出現する砂丘植物はすべて多年生で、単子葉植物のコウボウムギ、コウボウシバ、オニシバ、ビロードテンツキ、ハマニンニク、ケカモノハシ、双子葉植物のネコノシタ、ハマベノギク、ハマニガナ、カワラヨモギ、ハマボウフウ、ハマヒルガオ、ウンラン、ハマウツボの草木類、そして木本植物としてはハマゴウ、ハイネズのみで、全部でわずかに十六種類である。地下茎、匍匐(ほふく)茎、多肉質の葉、根茎の発達など、それぞれたくみに堆砂や地表層の乾燥に適応しているが、種類ごとにその生態は微妙に異なっている。
 鳥取砂丘を訪れたとき、砂丘は砂だけの世界ではなく、砂丘植物の生活の場でもあることも理解し、動く砂に対抗してけなげに生きる植物の姿をじっくりと観察したい。
 以下、これらの砂丘植物について、まず内陸部と海岸部に分け、そして砂の動きのはげしい不安定地から飛砂が途絶えかけた安定地の順におおよそ配列して簡単に説明しよう。

1.コウボウムギ(カヤツリグサ科)
砂の移動・堆砂にもっともすぐれた適応形態が地下茎と匍匐茎であると考えられるが、その典型的な種がコウボウムギである。適度であれは堆砂を受けるほどに旺盛に発達し純群落を形成する。そのため、砂丘の健全度を測るバロメーターとなり、堆砂量が少なくなれは、ほかの砂丘植物が混生するようになる。先端が鉄針のような地下茎を伸ばし、上方とともに四〜五メートルも離れたところにも出芽し新たな群落をつくっていくが、風食されると簡単に枯死してしまう。その結果、砂の動きがはげしいところでは、年ごとに群落の移動が認められ、風食されたところには「こうぼうの筆」と呼ばれる残骸を残す。

2.ビロードテンツキ(カヤツリグサ科)
地下茎をもたないが、実生(みしょう)が容易に生育するためもっとも広く分布し、たいていの植物群落のなかに生育する。風の吹き抜ける「砂丘の谷」には、まばらに純群落をつくる。根は針金状で長く、水分を確保しやすい。葉はビロ−ド状の微毛が密生して、水分の蒸散を防いでいる。

3.オニシバ(イネ科)
コウボウムギやハマゴウ群落がつくる砂堆の海に面した風衝斜面によく群落が見られる。横にはう地下茎の節々から地上茎をだす。硬く細い葉をもち、吹きつける風と砂に抵抗している。

4.ハマニンニク(イネ科)
鳥取砂丘の最東端地域の林縁沿いの風衝堆砂地に見られる。長い地下茎をもつ大型のイネ科植物。名前の由来は葉が白緑色でニンニクの葉に似ていることによる。

5.ハマニガナ(キク科)
もっともふつうに見られる。やわらかい地下茎を直線的に伸はし、葉だけが砂の上に広がる。幾何学模様を描いて生育するが、ほとんど密生しない。真夏には葉が枯れるが地下茎は生き残り、秋期にふたたび葉を再生し、可憐な黄色の花が春と秋の二季に咲く。

6.ハマヒルガオ(ヒルガオ科)
比較的限られた場所に分布し、海岸部の砂堤やスリバチのやや安定した壁面に多く見られる。地下茎を引き斑状に密生する。葉は腎臓形でピンク色のアサガオのような花をつける。

7.ハマボウフウ(セリ科)
地下深く直根を伸ばし堆砂地に単生する。食用として珍重されるため、採取対象となりやすくきわめて希少。葉は厚く複葉で放射状に広がり、小さな白い花をたくさんつける。大型の実は発芽しやすく近年増えつつあるが、大切にしたい植物である。

8.コウボウシバ(カヤツリグサ科)
砂の移動が、主要な生育の制限要因である砂丘植物のなかにあって、特段に水分を必要とする特異的な植物である。鳥取砂丘東寄りの凹地は、長雨のあとなどに南側凸地から水が流れ込み、池となることがあり、その周辺の水湿地に大群落が見られる。また、砂丘の各所にもまばらに生育しているが、そこは、決まって砂の乾燥が遅れる場所である。葉の形は生育の悪いコウボウムギに似て判別が困難な場合もあるが、葉は緑白色で区別が可能。葉の断面を見ると、葉脈間ごとに大きな空間があるため縁白色になるのであろう。雄花は細く楚々とし、雌花は根ぎわにつくためコウボウムギのようには目立たない。

9.ハマゴウ(クマツヅラ科)
砂丘地内唯一の匍匐性木本植物である。地上をはう匍匐茎は数メートルにも伸び、節ごとに根と葉をつけて広がり大きな群落となる。木本だけに風食にも耐える。葉生は少ないが、一度発生すると砂防効果が大きいため、繁茂は砂丘景観を阻害することにもなる。

10.ケカモノハシ(イネ科)
地下茎などをもたず点々と、ところによっては集まって生育する、多数のよく発達したひげ根によって砂丘に適応している。砂の移動がやや減衰するところに実生が発生し、分布を広げていく。一度発生すると容易に消減しない上、砂防効果が大きいため、砂丘の固定化をうながしやすい。かつて、ひげ根は箒(ほうき)として利用された。

11.ウンラン(ゴマノハグサ科)
砂の移動が減衰し、安定化しかけた立地に単性的に見られる。優占種として群落を形成することは稀で、ほかの砂丘植物群落のなかにしばしば混生する。へら形の葉はやや多肉質で無毛、縁白色。地下茎はないが、横にはう根の節から地上部が発達し、短いながら根が地下茎の働きをする。

12.カワラヨモギ(キク科)
さらに安定化が進んだ立地に単生し、直径一メートルにも達する株となる。このため砂防効果は著しく、コマツヨイグサやメマツヨイグサなどいわゆる雑草の侵入をうながす。ウンランとともに砂移動の衰退化を指標する植物である、根ぎわからでる葉は、細かく分裂して縁白色であるが、茎を高く伸ばし花をつけるころには枯れる。一方、花をつけるとき茎につく葉は対生で、針状の縁色であるため、別種のように見える。

13.ハマウツボ(ハマウツボ科)
カワラヨモギの根に寄生し、十五センチメートル内外に直立して紫色の花をつける。葉は褐色のうろこ状で完全寄生植物である。海岸部のカワラヨモギ群落のなかでときおり見られるが、なぜか内陸部では見かけない。

14.ハイネズ(ヒノキ科)
砂丘の凹地に形成されたクロマツ林(合せケ谷<あわせがたに>、追後<おいご>スリバチ)内や林縁に分布。先が鋭くとがった硬い葉を密生させ、地面をはうように広がる、ヒノキ科の常緑樹。

15.ネコノシタ(ハマグルマ)(キク科)
長い匍匐茎を伸ばし、葉を密生させ砂を確保するため、小さな砂堆をつくる。この匍匐茎が堆砂で保護されないと活性が弱まる。海岸部にのみ広く分布。葉は多肉質で耐塩性があり、ネコの舌のようにざらつく。茎の先に一つだけつく黄色の花(頭花)は、多数の花が集まったもの。

16.ハマベノギク(キク科)
鳥取砂丘では西端の海岸部のみに分布域が限られ、単生的でやや希少。葉はやや多肉質で短毛が密生する。茎は砂の上をはう。秋にノギグのような紫色の花をつける。

コウボウムギ
コウボウムギ
雄雌異株。緑の穂は雄花、茶色は雌花
ビロードテンツキ
ビロードテンツキ
最も広く分布し、たいていの植物群落に育成する
オニシバ
オニシパ
横にはう地下茎の節々から地上茎を出す
ハマニンニク
ハマニンニク
名前の由来は、葉が白緑色でニンニクの葉に似ていることからつけられた
ハマニガナ
ハマニガナ
可憐な花が春と秋の2期に咲く
ハマヒルガオ
ハマヒルガオ
細長い葉の単子葉植物はビロードテンツキとケカモノハシ
ハマボウフウ
ハマボウフウ
食用として珍重されるため、採取対象となりやすくきわめて希少
コウボウシバ
コウボウシパ
根元近くに雌穂が実り、その上部に枯れた雄花が残る
ハマゴウ
ハマゴウ
砂防効果が大きいため、過剰な繁茂は砂丘景観を阻害することにもなる
ケカモノハシ
ケカモノハシ
穂は熟すとくちばしのように縦に二裂し、名前の由来がわかる
ウンラン
ウンラン
後方の穂はビロードテンツキ
カワラヨモギ
カワラヨモギ
先端には無数のつぼみが付いている。根生葉はすでに枯れている
ハマウツボ
ハマウツボ
海岸部のカワラヨモギの根に寄生する。白緑色のカワラヨモギが周りに見える
ハイネズ
ハイネズ
鋭い針葉を密生して黒松林内に地面をはうように広がる。白緑色の小さな毬果をつける
ネコノシタ(ハマグルマ)
ネコノシタ
海岸部に広く分布し、少砂堆をつくるつくる
ハマベノギク
ハマベノギク
鳥取砂丘では海岸部の一部に分布し、やや、希少。上左にハマゴウが育成している



鳥取砂丘に侵入する雑草群
砂丘の中央部付近は、さすがにその環境がきぴしく、侵入する雑章の種類は限られてくる。メヒシバがもっとも広範囲に生育し、コマツヨイグサがそれに次ぐ。また、きわめて小さく糸状の葉のために目立たないが、ハタガヤも多く見られる。砂丘列(砂丘の山)の南側斜面にはチガヤが侵入する。しかし近年来、外来植物のオオフタバムグラが爆発的に生育し分布を拡張している。これらは比較的、砂の移動がある半安定地にも砂丘植物と共存して出現する。さらに砂地が安定してくると、メマツヨイグサ、オオマツヨイグサやマンテマなどが侵入をはじめる。砂丘地を広げるため、植林を除去したものの地形的な条件が悪く、砂の移動が少ない地域は著しく草原化が進んでいる。そのような場所では上記の雑草類のほか、ヒメムカシヨモギ、マメグンバイナズナ、ヒメスイバ、シナダレスズメガヤ、アリタソウ、ハマアオスゲ、コバンソウ、スイバ、ギシギシ、チチコグサ、ススキなどの草木植物やニセアカシヤ、アキグミ、クロマツの木本植物が繁茂し、湿性地ではヨシが侵入してきたことさえあり、社会問題になった経緯がある。

オオフタバムグラ
(アカネ科)
オオフタバムグラ
北アメリカ原産の砂丘植物。赤紫色を帯びた葉はヒメシバ
コマツヨイグサ
(アカバナ科)
コマツヨイグサ
砂丘に適応した匍匐性で繁茂する
シナダレスズメガヤ
(イネ科)
シナダレスズメガヤ
砂防植物として植えられたウィーピングラブグラスと呼ばれる外来牧草。林緑を中心に残存生育する


本文提供: (財)自然公園美化管理財団(C)
清水寛厚原著(新・美しい自然公園13 山陰海岸国立公園鳥取砂丘より)
写真提供: 清水寛厚(ハマニンニク、ハマニガナを除く全て)、 (財)自然公園財団(ハマニンニク、ハマニガナ)

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